竜神さんの伝説

まるでおとぎ話に出てくるようなお話。琵琶湖の水の恵みを、なによりも大切にしてきた地域ならではの竜神伝説は、滋賀県の各地に残っています。さて、愛荘町界隈に残る伝承はどんなものでしょうか。水を統べる神様を畏れ敬う人々の心が連綿とつながって、地域の祭になったいきさつを伺ってみましょう。

昔、このへんが彦根藩の領地であった時代に、島川を中心とした近在の農家から年貢米が集荷され、このから田舟で積み出し、肥田まで下がり、肥田でもう少し大きな舟に積み替えられて琵琶湖へ出て彦根藩へ送られていたそうであります。

その祐善介淵の舟寄せ場として、荻田喜蔵さんのすぐ裏に三畝ほどの浅い池がありました。これを笠やの池と名付けられていましたが、河川改修によりまして、祐善介淵も笠やの池もなくなり、現在は「かさや」とか「地蔵」とか地名だけが残っております。

ところが、河川改修が行われた直後、その近くで相次いで火災が起こり、近所の人が「なにかの祟りではないだろうか」と気味悪がって、枝村の観音さんにお伺いをたてたところ、かさやの池を中心にして昔から住んでおられた竜神さんが住処がなくなって困ってはるのだ、ということで「それでは」と早速五部(五組のこと、島川集落では隣組を「部」で呼称しました。)の方々が発起人となり在所中の篤志を募り37年3月に、笠やに石塔を立てて、それ以来、毎年一回3月の吉日に有志の家がまわりもちで、(まつりなどの当番の家)をしてお祭りをなさっているそうで、その日は午前中仕事を休み、善言賛辞という祝詞をあげ、お供え物をして、そのお下がりでお茶をいただきながら去りし一年の無事を喜び、これからの無事を祈って楽しく語り合い、地域のふれあいを深めていなさるそうです。おかげさまでそれ以来その地区では不時災難がなくなったと喜んで、お祭りを楽しみにしておられます。

このようなことは迷信だと言ってしまえばそれまでですが、何百年も前から先祖の人々が「さいかせさん」「青木の権現さん」また「地蔵さん」に家族の無事を祈り、地域の安全を祈願されて祀られた、その魂が、いまの人々の心を揺さぶり、その魂を呼び戻したものと言えるのではないでしょうか。

また現代的に解釈しましても、最近のギスギスした世相のなかで、とかく忘れがちになっている地域のふれあいを深めるという意味あいにおきましても大きな遺産を残してくださっているような気がいたします。

最後に、石塔に刻まれました歌を朗詠いたしまして、かさやの竜神さんのご紹介を終わります。

 妙なるや のりをとのうる雲間より 琵琶湖をともう白竜の神

アーカイヴズNo. 198B
番組名:あの地区この地区「かさやの竜神さん」
語り手:小杉栄治さん(島川)
放送日:1983年2月13日