サンタクロースは誰?

寒い冬こそ温かな催しが必要。厳かに祝うお正月に先立って訪れるクリスマスは、大人も童心に帰れる楽しい行事です。区長さんがサンタに扮する手作りイベントを、子供からお年寄りまでそれぞれに喜ぶ様子が賑やかな声で伝わってきます。


3分49秒

12月24日はクリスマスイブ。各家庭はもちろん、各字の子供会でもクリスマスパーティーで賑わったことでしょう。そんななか、松尾寺北地区では、区長さんがサンタクロースに扮してプレゼントを配るというユニークな催しが行われました。

—あの、区長さんね、いまサンタさんの姿になられたんですけど、赤い服でヒゲつけられていかがですか?

「んー、なんかこう照れくさいな。これからずっと、あんまり遅くなると子供ら寝ますんで、はい」

—この鈴(りん)は何ですか?

「まぁ、これ鳴らしていくと、サンタさん来はった、ということで子供が喜んで出迎えてくれるんやと思いますし。これから回ってきます」

—午後6時、公民館でサンタクロースに変装した松尾寺北区長、北川忠太郎さん62歳は、さっそく子供たちと一人暮らしのお年寄りの家を訪ねました。

「こんばんはー」「ご苦労さまですー」「ほれ、サンタのおじいちゃん」「ありがとございます」「おもちゃ!」「おもちゃないわ(笑)。これや」「わぁ~、ありがとうございます!」「あっくん、何入ったある? いっぺん開けてみ」「開けてみて、て」「バッグや」「やったねぇ、いいの」

—プレゼントの中身は、18人の幼児にはクリスマスブーツ、17人の小学生にはスポーツバッグやナップサック、靴に鉛筆。また二人のお年寄りにはクリスマスケーキなど。プレゼントにはメッセージもついています。

「あっくん、農園で覚えた、ものを育てる心をいつまでも大切にしてくださいって書いてある。農園のサンタクロースから、やて。いいなぁ!」「ありがとうございます」「ありがとう」

—サンタクロースの訪問は三年前から続いている、と、区長さんです。

「なんかこう、三年ほど前に当時の役員さんがこうゆうこと思いついてやってくれはって、それからもうずーっと毎年やってまんねやけど。まぁ今年は子供らが、子供農園で大変よく頑張ってスイカとか芋とか、なんやかや野菜も作って、またそれを各家に配ってくれまして。また地蔵盆にもスイカなど割ってみなに食べてもらうよなことやってましたので。まぁ今年は子供会が大変頑張ったので、こういうことをやって喜んでいただきたいと思いますし」

—また今年はプレゼントの中身が例年より豪華になりました。

「今年、子供会が自分らの欲しいもんを希望して、それに近いものを子供会の方で準備したり、字でもそれに付け加えたりして、毎年よりはちょっとカサのはるもんが配られてると思いまんねやわ。子供らが廃品回収やって、そのお金も多少こっちのほうに回ってるようです」

—子供たちが夢にまで見たサンタクロースがイブの夜、自分の家にやってくると、いまでは子供だけではなく家族中で楽しみにされています。富永善五郎さんのお宅もそのひとつです。

「もうお爺さんお婆さん大喜びです」「あぁ、お爺さんお婆さんのほうが」「へへへへ」

「まぁ、いま子供の教育なんかも難しい言われてますので、在所ぐるみでこゆこと考えてくれはるのもありがたいんですけど、それに増して我々親のもんが、もっとしっかりせなあかんおもてますけども」

「毎年子供も楽しみにしてまして、今晩もいつ来はるか、いつ来はるか、りんりんりんりん、いうて口真似してずっと待ってました」

「これからもご苦労さんですけど続けてやっていただきたい思います」

—松尾寺北のサンタクロース。毎年プレゼントの中身も、サンタクロースの顔も変わって、楽しさ2倍です。

アーカイヴズNo. 300
番組名:町のアンテナ「区長さんがサンタ」
語り手:北川忠太郎さん他(松尾寺北)
放送日:1990年12月26日

無代かき田植え

(1分36秒)

——ゴールデンウィーク中は、町内ほとんどの田んぼで田植えが行われました。そんななか蚊野の今村儀兵衞さんの田んぼでは無代かき田植えの実験が行われました。無代かき田植えは普及所員の指導のもとで行われたもので、代かきをしないで田植えをすれば泥水も落ちず、濁水防止につながるのではと、去年からはじめられたものです。43アールの田んぼを、時間をかけ、慎重に植えていきます。無代かき田植えについて、普及所の須藤さんです。

「作業の体系を、ちょっと変えるということで、普通でしたら、あの、水いれたあとにいっぺん、こうロータリーで回すでしょ、こう。機械、トラクター乗ってやりますね。ほれを、水をいれないで回るんですわ。で、水いれるの、きれいな水をいれてほんで、練りませんのでね。こういう泥汁は出ないんですわ。あと田植えするときに、ちょっと泥汁が出るだけで」

——また、田んぼ提供者の今村儀兵衞さんは、去年を振り返って

「気ぃつかう、ほら。苗が浮くといかんやろ」

——去年の出来ばえていうのは?

「ほらもう万作に近かったな。普通の田植えと変われへん。そない変わらなんだ。去年も相当米あったでな。ほで、どもないで。で、一番心配するのは、水ひきやけどな。ゆうべから加減してんのに、ぜんぜんゆうべ一晩ひいてないでな。ひかなんだらこのままの状態やけどな。のんでごらんになって土がいごいてないでしょ。高びくが多いけどな。ほらこれやったら活着もええのやろかな。サクサクのとこ植えてんねやな」

——泥水を落とさない無代かき方法ですが、大変な面もあります。

「土をなるだけ乾かして、一気に細かくしてもらわんとあかんのでね、ちょっと天候に左右されるんですわ。ほんで、普通でしたら雨のときでも別に代かきなんかできるんですけど、天気のいいときにやらんといかんので、お天気さん都合ちゅうことで、なかなか作業したいときにできない場合もあるんで、こういう濁水を作らないという試みということで、去年はじめてあそこでやらさしてもらって、そこそこよかったんで、今年甲良と秦荘と湖東町でやってるということです」

——琵琶湖の水を汚さないためにも無代かき田植えは、これから広まっていきそうです。


アーカイヴズNo. 429
番組名:町のアンテナ
語り:蚊野/今村儀兵衞さん他
放送日:平成3年5月9日

すり鉢ころがし

一厘線の転がる軌跡。子ども心にぐっとくる「勝負事」の話。

西澤ますさんは、明治22年生まれ、当時84歳。インタビュアーに子どもの頃正月に何をして遊んだかを問われたあとのやりとりです。西澤さんが「勝負事をしました」とおっしゃるので、もしや子どもが博打を?と、どきりとするのですが、実はそれは一厘銭(当時一番小さな単位の貨幣)を取り合うという他愛のないもの。「ころころーっと」「こーんところかけて」というあたり、軽い手首の所作が目に見えるようです。オノマトペには、その時代その時代の感覚が詰まっているのかもしれません。実はこの遊び、菊池寛の小説にも見られるのですが、その話は書き起こしのあとで。


(すり鉢ころがし/1分18秒)

あたしむかしはほいで、あの、一厘銭でな。あの、擂り鉢(すりはち)ころがしいうてあの、あれで勝負事しましたことあんのよ。

(ほうほう、それは、どういうような遊びですか)

ふん、これな、すりはちとってきてな、ほいで、一文銭をな、ころころーっとまわすにや。ほうすっとほれがちょんとこう、重なって、ほれが、ほうっとほれ、ほれ二文に重なっても三文に重なってもほれみなもらうん。ほういう勝負事したん 、 へえ。ほいでハァほれ、あのう、なんどすか、いろはかるたもありましたしな、はい、やっぱあれは昔からあった、ほんでも。へえへえ。

ほいですり鉢ころがし正月ようして、ほいで、こういう壁にな、こーんところかけて、あの壁にころころっところげてくんのん。ほするところげてくるとくとその、先きたのが、あの、一文やら、十円ちゅうなもなあれへんなら、むかしはなあの時代に、たいがい一文銭でしましたのよ。ほの時代のほんで、ほれでよ、あのう、 ○○まい、○○ 、十銭もうけたたら二十銭儲けたたらいうてよろこんで、したようなことあったけんど。

(もう最近はそんでも、そういうのどかなあの、遊びというのは、なくなりましたね)

あぁ、ないなあ、もう、もうほいて昔、明治時代はな、お金も小そうおしたしな、そらあ、あのう勝負事ちゅうたて、わずかどしたわいな、へえ。


さて、「すりはちころがし」という遊びは、はたして近江特有の遊びだったのか、それとも全国いたるところにあったのか。丼にサイコロを振り入れる「チンチロリン」は『麻雀放浪記』などで有名ですが、はたしてどうでしょう。調べていくうちに、実は菊池寛の小説にこの西澤さんの語りとそっくりなものが記されていることがわかりました。

 私達兄弟も、よくそれを見習つて、零細な金を賭して、いろいろな勝負事をした。摺鉢こけらしと云つて、摺鉢の縁から、穴の開いた一文銭をこけらし込む。一文銭が、摺鉢の真中に幾つも溜る。自分のこけらした一文銭が、中に溜つてゐる一文銭に重ると、重つた丈の一文銭を勝ち得る遊びもあつた。穴一と云つて、一文銭を幾つか宛出し合つて、それを壁に投ずる。跳ね返つて来た一文銭を、自分の手中の一文銭で打ち当てて取る遊戯があつた。そんな金をかけた遊びには、私も兄との平生の疎々しさを忘れて、ついて一生懸命に勝負を争ふのだった。
(菊池寛「肉親」大正十三年より)

どうやらこの遊び、近江だけのものではなかったようです。菊池寛の「肉親」では擂り鉢「こけらし」、西澤さんのお話では「ころがし」。菊池寛は香川県高松の出身なので、もしかしたら彼の地では「こけらし」と呼んでいたのかもしれません。

 

語り:西澤ますさん(明治22年生まれ)/放送日:1973年1月「丑年生まれをたずねて」/文責:細馬宏通
(2016.7.29 掲載)