有線放送電話とは?

有線放送電話とは、簡単に言うと、地域内だけでかけることのできる電話網です。

昭和30年代。まだ地方で電話のある家は少なく、電電公社(いまのNTT)に電話を引いてもらおうと思っても架線を引き、契約するのにはずいぶんと時間がかかりました(戦後の電話がどんなぐあいだったかについては、アーカイヴズ記事の「昔の電話」をどうぞ)。そこで昭和32年(1957年)、限られた地域内で、電話線を引き、各家を有線の電話でつなぐ「有線放送電話」に関する法律が制定されました。この法律によって、各地で有線放送電話が開設されるようになりました。秦荘(現在の愛荘町)でも、昭和38年(1963) 秦荘町有線放送農業協同組合が設立されました。

有線放送電話に加入して定額のお金を払えば、その地域内では定額でいくらでも電話をかけることができました。ただし、地域外にかけるには電電公社の電話を使う必要がありました。そこで、地方によっては、有線電話から有線局の交換手に電話をかけ、そこから電電公社の電話に接続する「公社接続」のサービスも行っていました。たとえば秦荘では昭和42年に有線電話から電電公社の電話につなぐ「公社接続業務」が開始されました。

なぜ有線「放送」電話?

有線放送電話のもう一つの大きな特徴は、電話に受話器とは別にスピーカーがついていることです。これを「スピーカーホン」といいます。このスピーカーから定時に「有線放送」が家中に流れます。

スピーカーホン。ダイヤルの下にスピーカーが備わっている。ここから家中に放送局からの放送が流れる。

有線放送の内容は、農作業に必要な農事放送(天気情報など)をはじめ、地域のニュースや住民の語り、学校便り、誕生祝いやおくやみなど多岐にわたります。いわば家に一台、つけっぱなしのラジオがあり、そこからときどき番組が流れてくるようなものです。有線放送電話局では、こうした放送を制作し、各家に配信する仕事も行っています。秦荘の有線放送農業協同組合には、放送の録音に必要な機材が揃い、スタジオも二室あります。また、放送を特定の地区だけに放送できるようなしくみや、各戸からも備わっています。

現在(2017年)の秦荘有線放送のスタジオ。
有線放送電話の公衆電話

有線放送電話には、公衆電話もあります。町内の駅や学校前など、公共施設の近くによく設置されています。有線に加入している家にはお金を払わずに電話をかけることができます。たとえば秦荘では、中学校のそばに公衆電話があり、加入戸の生徒はここから自分の家にお金を使わずに電話をすることができます。

秦荘有線放送局近くの公衆電話
各戸から放送を流す「ページング放送」

ページング放送とは、各戸にある有線放送電話から、指定した地区に有線放送をすることができるしくみです。
まず受話器を上げ、9番のダイヤルを回します。すると自動案内がながれてくるので、その後に流したい情報を受話器に向かって話してから、もう一度9番のダイヤルを回し、受話器を下します。するとその直後に放送が開始されます。
ページング放送は、区長さんや在所の役員さんがよく利用しています。

戸外でもきこえる有線放送
秦荘地区に設置された有線放送のスピーカー

町のいくつかの場所、田畑のそばなどにはスピーカーが設置されており、農作業の最中などに有線の放送を戸外できくことができます。