私は民俗学を専攻しており、「情報伝達ツールとしての音−湖東地域の太鼓櫓を例に−」というテーマで研究をしています。音というのは目には見えないものですが、「強弱」や「遅速」を使い分けることで単純化された記号になり、規則に従った音を発信することで一度に多くの人に情報を伝えることができる特性を持っています。救急車のサイレンなどがその例です。現在、私は滋賀県湖東地域の集落に見られる太鼓櫓を中心に、太鼓の音が伝える情報の内容や、櫓と音の象徴性について調査を進めています。
私は小学生の頃、夏休みの宿題で「野神さん」という祭について調べたことから、滋賀の祭や年中行事に興味を持つようになりました。そういった民俗学を滋賀県立大学で学ぶことができると知り、志望校を県大にしました。受験生の時はセンター過去問集をひたすら解き、秋からは一般前期試験の問題も解いていた覚えがあります。人間文化学部地域文化学科に入学してからは民具、古文書、祭礼、建築など様々な調査に参加してきました。民具調査では実際に使われていた生活道具のスケッチを取ったり、現地の方に使い方などを聞くことで過去の生活実態を理解することができます。古文書調査では文書の読解を通じて過去の社会情勢などを知ることができます。祭礼調査では神仏や祖先に対する感謝、祈りのかたちを見ることができます。建築調査では昔の人がどのような環境下で、住みやすさのための工夫を凝らしていたかを体感することができます。同じ滋賀に住んでいても、全く知らない生活文化を知ることが新鮮で、楽しくて、出来るだけ多くの調査に参加するようにしていました。
どれも貴重なものですが、時代とともにそれらは失われていきます。私は、せめて今残っているもの、知識だけでも、調査しておきたいという思いから大学院進学を決意しました。院試の時は、過去問を数年分か解いたり、英語の民俗学に関するテキストを読んだり、博物館の英語版パンフレットをもらって自分で和訳したりしました。そうするといろんな知識も入るので面白いです。また、専門分野に関する試験もあるので、自分の研究分野の研究動向について学会雑誌などを読んでノートにまとめたりもしていました。大学院に入学してからは、主に修士論文執筆のための調査研究を進めています。大学院の授業はこれまでの講義形式とは異なり、テーマを自分で定めて調査・発表するものが多いです。そのため時間に追われることもありますが、修論研究する上で新たな視点・方法を見つけることも多く、毎回刺激を受けます。
文化財や地域振興に関わる仕事に就きたいです。自分が6年かけて学んできた知識や経験を活かせる職業に就くことを目標に就職活動しています。やはりフィールドワークが好きなのでこれからも様々な調査に携わりたいと思いますし、廃れていってしまう民俗文化をどのように守っていくかを考え、具体的にかたちにしていけたらいいです。民俗文化財には民具や古文書などの他にも、祭や行事、慣習などもあります。「モノ」を保存するだけではなく、報告書や映像などの記録に残す、「コト」の保存もおこなっていく必要があり、地域住民の方々と協力しながら、学芸員として、あるいは研究者として保存活動していきたいと思います。しかしそういった採用には限りがあるのも現実で、今までの研究成果をまとめつつ、視野を広げながら就職活動をおこなっているところです。
滋賀県の祭礼調査
・甲津原顕教踊り調査(米原市甲津原)
・多賀大社大祭調査(犬上郡多賀町)
・志賀谷オコナイ調査(米原市志賀谷)
・酒井神社例祭調査(大津市坂本)
民具の記録・保存の調査
・旧北川家民具調査(近江八幡市下豊浦)
・円山西川嘉右衛門家民具調査(近江八幡市円山)
・伝統工芸和泉櫛の民俗技術調査(大阪府貝塚市)
・白谷荘歴史民俗博物館調査事業(高島市マキノ町)
・奥伊吹民具調査(米原市甲津原、曲谷)
古文書の記録・保存の調査
・西小川古文書撮影(福井県小浜市)
・草津宿本陣歴史資料調査(草津市)
民家台風被害の記録調査
・円山西川嘉右衛門家台風被害調査(近江八幡市円山)
在日外国人の生活に関する調査
・在日ベトナム人コミュニティ調査(大阪府八尾市)
山村・漁村生活文化調査
・多賀町民俗調査(犬上郡多賀町)
・若狭民俗調査(福井県小浜市、三方上中郡)