学部時代から、観光について学んできました。観光には様々な形態がありますが、現在は、COVID-19が常態化していることを背景に、観光業の打開策として注目を集めているクラウドツーリズムを研究しています。クラウドツーリズムとは、「クラウドコンピューティング」と「観光」を融合させた造語であり、OTA(Online Travel Agent)やライブ配信、ショート動画といったプラットフォームを通して疑似観光を楽しむことを意味します。これまで、中国におけるクラウドツーリズムの研究は、クラウドツーリズムをCOVID-19の流行中の一時的な道具にすぎないとみなす「ツール派」と、様々なリスクに対応できるため、今後も観光の一形態と定着していくとする「イノベーション派」の間の空中戦的議論が主流でした。しかし、具体的な事例の増加によって、実際の事例に即してクラウドツーリズムとはいかなる観光形態なのかについて検討することが可能となりました。そこで、大学院の一年目では、中国におけるクラウドツーリズムに関する先行研究の整理と事例考察を行った研究ノートを執筆し、滋賀県立大学人間文化学部発行の『人間文化』へ投稿しました。現在は、その研究ノートで残された課題に取り組みつつ、修士論文の完成を目指しています。
私の故郷である中国河南省の焦作市は、太極拳の発祥地であり、国際観光都市を目指して発展しています。しかし、「国際的な知名度が不足している」、「観光客に対して太極拳の入門や文化を理解してもらうことが難しい」、「観光地と焦作市の中心市街地に繋がりがない」、「オーバーツーリズム」、「地域格差」などの課題に直面しています。そこで、焦作市で生まれた私は、それらの地域課題を解決していきたいと考えました。そして、そのような地域課題を解決するためには、観光分野の知識を身につける必要があると考え、観光先進国の日本へ留学することに決めました。日本語学校で1年半ほど日本語を学んでから、日本の大学に編入して観光事業のマネジメントや関連産業の基幹事業とその展開モデルなどについて学びました。しかし、私の故郷の観光は、単にビジネスで利益を生み出す手法を習得するだけでは、改善できません。そうした手法に加え、社会学の視点を持って社会課題の実態や、現象の起こる原因を分析する方法論を学ぶ必要があります。そこで、私は学部4回生の頃に、社会学と地域再生分野に関してさらに深く学びたいと考え、滋賀県立大学大学院に入学しました。
大学院修了後は、観光や地域再生、まちづくり、環境保全に関わる仕事に就きたいと考えています。そのため、大学院一年目では、社会学特論や地域産業論、地域計画特論といった授業を受講し、幅広い領域の知識を身につけました。また、社会学分野がご専門の櫻井悟史先生の下で、観光社会学の理論や拡張現実時代の観光など、修士論文の研究対象とするクラウドツーリズムに関わる他の論文や事例などを学びました。それ以外にも、大学院に設置された「近江環人地域再生学座」という副専攻を履修し、地域活性化やコミュニティ・ビジネスがご専門の鵜飼修先生の下で、地域の本質的な特徴を短時間で抽出できる「地域診断法」を学び、湖国近江をフィールドとした現地調査に参加する中で、持続可能な地域再生の理念や地球市民意識、環境保全意識などを身につけました。副専攻の検定試験に合格したため、「近江環人(コミュニティ・アーキテクト)」という称号が大学院修了時に与えられることになっています。
[現地調査]
・兵庫県尼崎市の観光資源に関する調査
・滋賀県多賀町大滝地域の中山間地域の資源に関する調査
・滋賀県栗東市の地域資源に関する調査
[実践現場訪問]
・徳島県上勝町ほか4現場の視察
・滋賀県東近江市蒲生地区ほか4現場の視察
・岡山県西粟倉村ほか5現場の視察
・福井県三方郡美浜町ほか3現場の視察