2015年3月卒業

山田 修平

鳥取県立美術館

山田 修平

Q1. 仕事の内容を教えてください。

現在は2025年4月にオープンした鳥取県立美術館で学芸員として働いています。仕事の内容としては、主として企画展・常設展示をはじめとする展覧会の企画・展示、地元・鳥取県にゆかりある近世以前の絵師、および近現代日本画家らの調査研究、収蔵作品の保存・管理・修復、および作品収集と普及事業などを担当しています。
鳥取県立博物館の学芸員として働いていた2019年からの5年間は、この美術館の開館準備業務にも携わりました。開館記念展の企画を考えながら、新たに開館する美術館としてどんな館にするべきか、そしてどのような運営・プログラムを行っていくべきかなど、学芸員やスタッフたちと時間をかけて議論し、検討を重ねました。通常の業務に加えてコロナ禍も加わり、しんどい時もありましたが、一つの美術館の開館に立ち会うという、長い人生の中でもなかなかない経験できない仕事ができました。

Q2. どんな大学生活を送りましたか。

お恥ずかしい話ですが、正直に言うとお世辞にも真面目な学生とは言えなかったかと思います…。ですが、のびのびと学べたことは間違いありません。部活として弓道部に所属しながらいくつかサークルを掛け持ちし、ゼミ・学部・大学の垣根を越え、様々な友人もできました。環境科学部の友人と川で魚を獲ったり、ミシガン州立大の留学生と市内のバーで飲んだり、長浜曳山祭の調査をちょっとだけお手伝いしたりと、その時しか経験できないことを全力で楽しむことができたと思います。今にして思えば、美しい琵琶湖の四季を身近に感じられたことだけでも大変贅沢なことでしたけどね。
また、付近には彦根城をはじめ、湖東三山や湖北の観音霊場など、国宝や重要文化財も数多くあります。さすが、歴史的に交通の要衝であった場所というか、大津や京都、名古屋の文化財や美術館・博物館へのアクセスもよく、「本物」を目にできる機会を多く持てたことはとても良かったと思います。原付を走らせて行った高月・渡岸寺観音堂の十一面観音像、それと名古屋・徳川美術館の源氏物語絵巻を目にした時の感動は、今でもはっきりと覚えています。
ゼミは考古、保存修景、美術史で最後まで悩みましたが、最終的に美術史のゼミに入りました。卒論の内容を決める時もとても時間がかかりましたが、ゼミの先生のアドバイスもあり「源氏物語絵」と決め、ちょうど私の在学時に千葉大学、愛知教育大学の美術史ゼミと合同で「うみだらぼっち」という名の卒論のための研究発表会が開催されていましたので、その研究会で先生・先輩方から多くのアドバイスを頂きました。他大学の同期たちからも意見を貰いつつ、励まし合いながらモチベーションを高め合うことができたことは良い思い出です。

Q3. 地域文化学科で学んだことで現在活かされていることは何ですか。

論文の書き方や作品の扱い方、調査方法や古文書の読解といった、ここで学んだ基礎的な知識や技術が生かされていることは言うまでもありません。しかし、この学科では歴史・考古・民俗・建築・美術史・地理学・社会学など、幅広い人文学系の学問を学ぶことができます。自分の専攻ではなく、さまざまな分野から多角的な視点を得られるということは、地域社会に存在する様々な人々の営みのあり方やその来し方、その延長線上にいる自分や他者との関係を、「点」や「線」だけではなく「空間的」に捉えるという思考へとつながったように思います。こうした視点が、前職である教員時代、そして地方の博物館施設で学芸員として仕事をする現在において、展覧会や研究、また新たな美術館という地域文化の拠点としての「場」のあり方を考える上においても、様々な示唆を与えてくれたように思います。

Q4. 将来の目標を教えてください。

現在、主に江戸時代の鳥取画壇について研究しているところですが、2024年春、その成果の一つとして幕末の鳥取藩御用絵師・根本幽峨の展覧会を開催しました。18世紀末から幕末にかけての鳥取藩には、土方稲嶺や片山楊谷など、面白い作品を生み出した画家たちが数多く存在し、これまで鳥取県立博物館を中心に展覧会が開催され、その画業が顕彰されてきました。幽峨展では、まず学芸員の先輩方が積み上げてきた研究の厚みを知りましたし、同時に全国の研究者や地域の方々のご協力で多くの発見を得られ、まだまだ世の中に知られていない作品や紹介されていない事跡が多いことを改めて知ることができました。鳥取という地域で受け継がれてきた豊かな芸術文化をさらに深掘りし、地域の重要な魅力の一つとして皆さんに大切に思ってもらえるようにすることが今の私の目標です。

Q5. 地域文化学科を目指す高校生にメッセージをください。

世の中では「人文学系の学問が一体何の役に立つのか」という人もいます。私自身、受験の時も大学時代もそんなことを考える時がありました。しかし、今にして思えば社会人になってから、ここで学んだことが思わぬ形で重要な役割を果たす時が幾度もあったように思います。自分が興味を持って学んだことに無駄はない、というのが今の私の考えです。
この学科には地域文化を深く知るという大きなテーマが存在しますが、それは「足下を掘れ、そこに泉あり」を地でいくことに他なりません。多様な視点を身につけ、時にマクロ/ミクロな視点で地域文化を探求する方法を学ぶということは、多くの人がまだ気付いていない「泉」に気づくための力を養うことでもあると思います。現時点で明確な目標を持てている人も、漠然とした興味だけを抱いている人も、ここで幅広い学問に触れ「泉」を見つける力を身につけてみてください。