装うことで服となるコレクションの制作

稲福麗美

私は、周りから認知される自分と、背負っている文化的背景との間のギャップ、アイデンティティの曖昧さに生きづらさのようなものを感じることがある。そんな感情から生まれたクリエイションを通して、ファッションデザインの可能性を再認識してもらうとともに、あらゆる者の存在肯定を行いたい、という思いでコレクションの制作を行った。

制作した服は全てが同じ円にみえる。どんな服であるか、そもそもそれが服なのか、見ただけでは分からない。しかし、そこに人が存在して、そこに装う者がいることで初めて服になる。逆に言えば、人の存在無しでは服ではないため、コレクションが成立しないのだ。このコレクションを通して、ひとりひとりの存在がとても大切なのだということを伝えることを試みた。

私が目指したのは、一つ目に、人が身につけていない状態と、人が着用した状態で違いがある服。つまり、衣服としてのかたちが予想できない服。二つ目に、装うことや装う者によって、オリジナルの表現が生まれる服だ。これらを実現させるためにかたちからのアプローチを行った。さらに、かたちを装うためデザインとして穴を多く取り入れている。

コレクションテーマである「Someone’s sky」は、素材として使用した、およそ20着の古着のデニムから空を連想して決まった。思わず写真を撮ってしまう美しい空のように、このコレクションを見て素直に素敵だなと思ってもらいたい、そんな思いも込めている。