上手くできないからもうやらない

坂田恋

これは私の弟が発した一言であるが、このようにできなかったことや、楽しくなかった経験から、ものづくりに対して苦手意識をもっている人は少なくない。幼少期におけるものづくりの体験は、誰かに良し悪しで評価されるものではなく、一人一人が豊かな創造力を発揮し、自分の感性として大切に育むためのものであると考える。しかしながら原体験が否定的であることの悪影響は計り知れない。本研究では、そんなこども達を減らしたいという想いから「こども達が、これからどうやったらものづくりを楽しんでいけるのか」をテーマに、ものづくりの入り口となるツールを目指した。

本研究は「インクルーシブデザイン」というデザイン手法を活用し制作を行った。インクルーシブデザインとは「排除されてきた特定の人々」の課題解決を起点とした包括的(インクルーシブ)なデザインのことであり、多様なユーザーの参加と共創によってデザインを作っていくことを到達目標にしている。①観察 ②アイデア創出 ③プロトタイプ ④テストの4つのステップがあり、これらのステップを通して、何度も試行と修正を繰り返すことで望ましい解決法へと近づける手法である。本研究では、「彦根市ふれあいの館」と「にじいろkids」の協力のもと、当施設を利用する小学生50名を対象にワークショップ形式で形状やモチーフ、素材などのスタディを進めていった。

こども達とのスタディと筆者の専攻を踏まえ、アクリルパズル「canbis」を制作した。木工ジョイント方法である「ビスケットジョイント 」を活用し、「ジョイント」というものづくりの一面を学べることを目指した。パズルはジョイント部分を差し込むことで展開できるようになっており、平面上でも立体上でも組んでいくことができる。また、アクリルの特性を活かして、パズルを組むとジョイント部分の色が変化する仕組みになっており、こども達の「作ってみたい」という気持ちを後押しすると同時に、「完成物を作ること」ではなく「つなげて形を展開していくと自然と何かができている」というふうに、恐怖感なくものづくりを楽しめるように工夫した。

canbisで遊ぶこども達は、各々が思い通りにパズルを作り、時には作ったもので何か違う遊びに昇華させたりと終始楽しそうな表情を浮かべていた。こども達の豊かな発想と感性を引き出し、ものづくりの楽しさをデザインできたのではないだろうかと思う。本研究がこども達の実りある未来の手助けになることを願っている。