若者が青年期を有意義に過ごすための居場所の提案

棚橋璃咲

 私は自身の経験から、学校でも家でもない「居心地の良い居場所」を無意識のうちに求めてきた。3回生では、一般的に居心地が良いとされる空間の物理的特徴を明らかにしたが、本来の居心地の良さには心理的側面も大きく関わると考察した。心理的な居心地の良さは個々によって異なるため、まずは「何に対して居心地を感じるのか」を個々が理解する、すなわち自己理解を深めることが重要であると考えた。
 現代の若者は、SNSの普及により他者と自分を比較しやすく、心理的負担を感じやすい。本来、青年期は自身の強み・弱みや興味、価値観を理解していく時期である。しかし、若者が自己理解を深められる環境は十分とは言えない。そこで本研究では、若者支援を行うユースワークに着目し、その活動を応用した新たな若者の居場所を提案することとした。

 調査の結果、①若者は自己理解を深める際に「自身の行動」と「人との関係性」を重視していること、②ユースワークでは「若者の主体性」と「対等な立場」を大切にされていることが明らかになった。これらを踏まえ、人との距離感や関わり方を自身の行動で選択していく中で、それぞれが居心地の良い居場所を見つけ、その過程を通して自己理解を深められる空間の設計を目指した。

 コンセプトは「余白のある居場所」とする。人によって異なる、居心地の良い人との距離感や関わり方を①段差②境界を用いて以下の4つの庭で表現する。それらを緩やかに繋ぎ、「空間の余白」と「人との余白」が徐々に変化していく構成とした。

誘う庭:オープン、段差なし、境界なし
岐阜駅からバス停に向かう人々を空間内へと誘導するための庭である。ペデストリアンデッキと同レベルにも人が居られる空間を作ることで、敷地の認知度を高めようと考えた。

開ける庭:セミオープン、段差あり、境界なし
桜の木の周りの螺旋階段を下った先に広がる丘が開ける庭である。450mmの段差があり、どこにでも座ることができる。地形に起伏を設けることで、初めて訪れる人でも居場所を選択しやすいようにした。

滲む庭:セミクローズ、段差あり、布による緩やかな境界あり
開ける庭の東側を下り、潜って入った先滲む庭である。布で空間を緩やかに区切り、すりガラスの天窓からは上部を歩く人々の影が落ちるため、滲んだ気配を感じることができる。

静まる庭:クローズ、段差あり、壁による明確な境界あり
最も奥に位置する丘が静かな庭である。約3000mm四方の個室を1ユニットとし、計16室を配置した。個室内には丘の段差も表れている。窓は設けず、壁と屋根の間に隙間を作ることで外部との繋がりも残した。

 本制作では、周囲からの評価や視線に縛られず、思い立った時にふらっと立ち寄って、自分にとって居心地に良い居場所を見つけられる空間を目指した。設計にあたっては、ユースワークの考え方を参考にし、用途を限定しすぎない空間構成や段差と境界による視線操作によって、空間的・心理的余白を生み出すことを試みた。本制作が若者の日常の余白にそっと寄り添い、使われ続ける中でこの場が更新され、地域における新たな若者の居場所となっていくことを願っている。そして、この空間体験が、若者一人ひとりが自分自身と向き合い、自分らしさに気づくきっかけを生み出す場となれば幸いである。