衛生面と美観を両立する食器の収納方法の研究-吊るす収納に関する制作-

中村真衣

食器は、食器棚内でスタッキングされることにより、その形状や模様が隠れてしまうことや、食器棚内で複数列に並べて収納する際に奥の食器が取り出しにくくなることがある。また、水切りカゴ等で乾燥させる場合、食器同士が重なり乾きにくくなることや、見た目が乱雑になることがある。そこで本研究では、収納時にスペースを占有しやすい「プレート」に着目し、衛生面、美観、効率性を兼ね備えた新規性のあるプレートと、専用の収納ラックの制作を行う。これにより、従来の課題に対する有効な解決策と、食器収納に関する新たな視点を考察することを研究の目的とする。

キッチン周りの収納状況について検討した結果、「吊るす収納」が従来の課題解決および効率的な収納を実現する有効な手段であると考えた。吊るすことで床面から浮き、食器同士が接触しないため、衛生的に乾かすことができる。また、安定性があり、1枚ずつ取り出しやすく、縦に収納されるため省スペースとなる。

形状は「吊るす」から連想される言葉から、風や水の勢いに従って横にゆらめくように動くという意味の「なびく」と、布や紙などが風に吹かれてはたはたと動くという意味の「はためく」の2語をモチーフに制作を行った。作品名は、フランス語で軽やかで自由な動きを表す語の「flotter(フロテ)」とした。プレートの大きさは、使用頻度の高い「中皿」を主な対象とし、小皿、長皿を展開する。素材は成形の自由度が高いこと、ある程度重さがあり吊るした時に安定感があること、高級感のある質感から「陶器」及び「磁器」とする。生産方法については、主に陶器の場合は「タタラ作り」、磁器の場合は「圧力鋳込み」の2つの方法が挙げられた。より安定した収納を目指し、専用収納ラックも制作することとした。吊るした際に皿同士や壁と当たらず通気性が確保できることや、壁面から出過ぎず邪魔にならない最適な角度を検討し、壁面から15°で立てかけることが適当であると決定した。

普段から料理をする中で食器に興味を持ち、自身の経験から着目した課題を研究の主題として設定した。プレートを吊るすことで風になびくような軽やかな姿を表現し、キッチン空間に美 しさをもたらすデザインを追求した。この提案は、収納を単なる実用的な行為にとどめず、生活空間と調和する収納方法として新規性があると考える。衛生面や美観の両面から「美しく収納する」プレートを目指した本制作は、食器収 納の課題に対する新たな解決策となるだけでなく、普段何気なく使われている食器が、単なる道具でなく生活に美しさをもたらす存在として再認識させるものである。本研究が食器とその収納に新たな価値観を見出すきっかけになることを期待する。