科研「介護施設において高齢者・介護職員間で交わされる身体動作を用いた空間表現」

種目

基盤研究(C)

研究分野

福祉社会学

本研究の目的

 本研究の目的は、介護施設において、高齢者・介護者間で発話・身体動作による空間表現がどのように行われているかを明らかにすることである。
 認知症が進行しつつある高齢者では、ことばの想起に困難になる、見当識が鈍るなどの傾向が見られることが知られている。が、こうした傾向は、従来、言語コミュニケーション(たとえば名前や場所を聞く)をもとに認定されてきたし、ケアする側も、言語コミュニケーションの困難の度合いによって対応を決めることが多かった。しかし、これまでの予備的観察では、たとえ発せられることばに淀みや言い直しがあっても、本人の動作は適切な行為を示しており、それにケアスタッフ側が気づいていない例がしばしば見られ。こうした現象は、身体動作に注目することで初めて明らかになる。
 事物や人物の配置、場所の特定は、高齢者とのコミュニケーションで、非常に重要な位置を占める。高齢者とのやりとりで有効な空間表現が何かを特定することは、今後、高齢者福祉のさまざまな場面において重要な意義を持つと考えられる。
 また、本研究は分析後に再び現場での事後調査プロセスとスタッフとの面談を組み込むことで、従来のコミュニケーション研究に不足していたアクション・リサーチを行う。このことで、単に高齢者の空間表現行動が明らかになるだけでなく、そうした表現を、スタッフの側がいかにすれば気づくことができるか、また、そこにどのようなタイミングで関わっていけば、進行中のコミュニケーションに新たな文脈を呼び覚ますことができるかが明らかになるであろう。
 また、本研究では、介護生活の中から、ある問題がうまく解決した場面を微細に分析し、そこで当事者が無意識のうちにどのような行動を行っているかを明らかにし、体系化することを目指す。コンマ秒単位の当事者自身の意識にのぼらない行動を明示化することで、それは当事者にとっても発見となる。しかも、それは当事者自身の行った行動なので、当事者に受け入れられやすい。さらに、こうした知見は実際に行われた行動に基づくので、現場に還元するのが容易になると予想される。

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