英国と日本における近代家庭機器の発展過程およびデザイン変遷に関する研究
- 熱系家庭機器の近代化を中心に -

論文概要

20世紀において工業的に生産された製品(プロダクト)のデザイン変遷は、デザイナーの造形思想の変化からだけでは説明できない。製品のデザインは、利用可能な技術、製品化した企業の活動、流通・販売のシステム、購買し使用した生活者の行動・心理・慣習など、さまざまな分野にわたる諸要因の総和として成立するものだろう。個々の製品には、デザイナーたちの造形思想を超えた、これら社会全体のダイナミズム、つまり、個々の製品をめぐる諸要因のはたらきが反映されているはずである。

本研究では、英国と日本において近代以降に量産されてきたいくつかの製品の発展・普及の過程について、特にそのデザインの変遷過程に着目しながら、具体的な考察をおこなった。そのための事例研究の対象として、家庭内での熱の利用に関わる「熱系」の家庭機器の中から、電気ケトル(魔法瓶と電気ポットを含む)、家庭用の風呂(浴槽および浴室設備)、調理用の鍋の3群を選んだ。本論では、これらの各事例ごとに、日・英での機器の近代的変容(近代化)の過程について、その変容をもたらした社会的背景、技術的背景、経済的背景、文化的背景(生活慣習・生活志向)から考察した後、それぞれの発展・普及・変容の要因およびプロセスの特性について、日・英で比較した。結論では、日・英の熱系家庭機器の近代化について総括するとともに、これらの機器の近代化を「進化」ととらえる概念や理論について検討を加えた