デジタルな調査かアナログな調査か

大学で、デザインのための調査・計画手法についての授業を担当している。そこで気が付いたことがある。学生たちに課題を与えてグループワークをさせていると、すぐにアンケート用紙を配って調査をしよう、ということになる。まずアンケートで数、つまり「数的データ」をとるのが、当然だと思うらしいのである。はたして、それが最も適切な方法だろうか、と聞いても、彼ら、彼女らはぴんと来ないらしい。

なぜ、実際のフィールド、つまりデザインしようというモノ・製品が実際に使われている現場を見に行かないのか。また、そうしようという発想が浮かばないのだろうか。

学生の卒業研究(論文)でも、やはり似た傾向がある。アンケートあるいは実験をして、それを数量的に分析して、結果・結論を出す。そのアンケート項目、その実験条件に限って考えれば、それなりの結果・結論が出るのはむしろ当然である。

フィールドの研究だと、こうはいかない。「調査サンプル」には偏りがあり、「サンプル数」は限られ、その「評価」も「恣意的」にならざるを得ない。しかし、現実のフィールドというのは、そもそもそういう場所なのではないだろうか。学生ばかりでなく教員の間でも、こういう認識は根強い。数で、数値で、数量的に(つまりは、デジタルに)分析してこそ説得力ある「学術的」な研究たりうる、というのである。これは、論文生産性だけを重視してきた大学という場所に特有の現象かもしれない。デザインの研究者のなかでも、フィールド派・考現学派(つまりは、アナログな描写・記述による考察や分析)は、いまや断然、少数派なのだ。

デザインに関する調査は、はたしてデジタルな方法がよいのか、あるいはアナログな方法がよいのか。私自身、答えは出せないでいる。しかし、かつて民間に勤めていた頃の実務の中では、通りいっぺんのアンケート調査より、数少ない事例でもフィールド調査の方が、リアリティあるデザイン・計画・提案に結びついていたという実感はある。

だから、私の授業ではアンケート調査はわざと軽視して、なにより現場を見てくることを勧めることにしている。フィールドに出るのをおっくうがる学生もいる。何しろ大学よりアルバイト(実はこれはこれで現実社会のフィールドなのだが)の方が大事だと思っているのではないかと疑りたくなる連中である。手数・足数がかかり、後の整理にも手間取り、しかも結果も曖昧なフィールド調査だけど、いや、だからこそ、結局はこっちの方がずっと「おもしろい」結果が出るよ、ということを何とか伝えたいと考えている。

(野外活動研究会「フィールドからデザインへ」のための原稿)