自動販売機(Vending Machine)

人手を介さずに物品を販売する機械装置。その基本構成は、商品の入る函体に、その商品を販売するための機構(金銭投入によって商品の保持が解除される機構など)が付く。

日本で最初に製作された自販機は明治末期のタバコ・菓子用のものであった。大正末から昭和はじめには、広範な商品を自動的に販売する試みがなされた。昭和初期の販売品目としては、タバコ・切手・はがき・おみくじ・鉛筆・キャンデー・チョコレート・香水・牛乳・ジュース・酒・コンドーム・花柳病予防薬などがあった。これら戦前までの自販機は、普及台数も少なく、その物珍しさによる広告効果、いわば客寄せを目的として使われたものが大部分であった。

客寄せから実用へ

第二次対戦後になると、国鉄が切符の手動自販機の設置を始める(昭和27年。国鉄はこの後、電動式、全面印刷式を設置)。駅頭などで流行したミキサーを使ったジュース・スタンドに代わって、昭和32年には噴流ドームのついたカップ手抜き式のジュース自販機が出回った。そして、昭和36年に外資系コーラ会社が自販機を導入したのを皮切りに、台数の爆発的な増加が始まっている。次いで昭和40年代初頭には、専売公社の指導もあってタバコ用自販機が導入されはじめ、飲料自販機はボトル式から缶式が主流となった。こうして、昭和40年代半ばまでには、現在の基本機種に近いものが出そろっている。昭和35年頃には全国で1万台程度といわれた自販機が、昭和45年には100万台を超え、平成8年現在では544万台(両替機やコインロッカーなどの自動サービス機をのぞいても421万台)にもなっている。この普及台数はアメリカに次ぎ、人口一人あたりでは日本が世界で最も自販機の多い国になっている。その種別構成をみると、清涼飲料をはじめとするコーヒー・乳飲料・酒類などの飲料用が約半数を占め、次いでタバコ用(約1割)が続き、残りを食品・切符・切手・玩具・乾電池・新聞・雑誌・コンドームなどの雑多な自販機が分け合っている。

極小の商店カプセル

自販機は、極小の商店機能を封じ込めたカプセルとして、どこにでも入り込んで営業できる。中身商品の補充や電力の供給、及び点検の必要から、その分布しうる領域にかぎりはあっても、一個一個が自己完結性の高い「極小の商店」である。このため、中身商品の安全・衛生などの問題はもちろん、盗難・破損・未成年対策などの社会問題を起こしうる。また、その広告効果を狙った外観が街並み景観との齟齬を生じ、自立する構造であるために転倒などの事故の危険性があり、電気給排水設備を内包し加熱冷却などをおこなうので、多量のエネルギーを消費するばかりか、アース状態・作動状態の安全性が問われる。路上へのはみ出しは、車の路上駐車と同様の私的占有となる。また物品の包装、飲料の空き缶・空きビンを排出するので、ごみ処理の問題をかかえている。これらの諸問題に対して、行政による指導・規制が行われており、業界でもその解決・改善がすすめられている。

飲み物と道路

街路で普通にみられる自販機には飲料用とタバコ用が多い。飲み物(清涼飲料水のほか、ジュースや缶コーヒー、乳飲料を含む)は、最も自販機で売りやすい形の商品であり、逆に、現在の自販機は、飲み物を売るのに適合するように発達してきたともいえる。現在、清涼飲料の約半分近くが自販機で売られているといわれている。これらの飲み物の消費量の増加は、自販機台数の増加とも相関し、自販機の普及がこれらの嗜好品を気軽に取る習慣を支えていることがわかる。喫煙の習慣も、タバコが自販機の普及によって、いつでも手軽に買えることと切り放せない。

自販機は、販売の手間を省力化するものといわれてきた。しかし一般の自販機のもたらす効果は、商品の販売機会を拡大することでもある。路上の自販機は、人通りのある場所ならばどこへでも設置されて、販売機会をつくり出そうとする。自販機による閉店後の「営業」など、空間的のみならず時間的にも販売機会を拡大する効果を持つ。さらには新商品の広告効果・需要開拓効果も期待されている。現在では、缶コーヒーやある種のドリンク剤のように、主に自販機で販売することを意図して開発された飲み物もある。

(初出:日本生活学会編『生活学事典』TBSブリタニカ)