生活様式と生活史

生活様式とは

生活様式(way of life )とは、個人ごとに特有の「生活のしかた」ではなく、ある社会集団や地域的拡がりに共通してみられる生活のしかた、暮らしかたの型(類型・タイプ)である(吉野1988)。生活様式は時代的に変化するものであり、本項タイトルでいう生活史とは、この生活様式の時系列的・歴史的な変遷・推移を指し、社会学分野でいうライフヒストリー(個人の生活歴、個人生活史)とは異なる。

生活様式は、それを可能にする物質的あるいは非物質的な生活手段の体系によって支えられている。デザインは、この生活手段の各要素(例えば生活空間や生活財)を計画・設計する行為であり、特に現代の生活様式の形成に、デザインは密接に関わっている。

現在に至る生活様式の推移(生活史)をよく把握した上で、そこに適切なデザイン(新しいモノの創造)を行うためばかりでなく、デザインされた特定のモノ(対象物)が、なぜ、どのようにして生活様式の中に組み込まれ、どのように変化し、またやがて消滅していくのか等、デザインをめぐる社会的現象を理解するためにも、生活様式の研究が必要となる。

生活様式と「ライフスタイル」

生活様式とよく似た概念に「ライフスタイル」がある。この語は日本では1960年代末から1970年代にかけてマーケティング分野から広まったといわれる。広くは個々人の生き方、および生活場面での自己表現といった意味だが、狭義には生活手段・生活財のほとんどが商品のかたちで暮らしに入ってくる現代の消費社会において、それら生活財に対する個人の選好パターンを指す。ここには個人の生活要求(生活行動のさまざまな側面のうち何を重視して暮らしているか)や、生活財・生活空間に対する美意識などが含み込まれている。

この選好パターンによって生活者をグルーピングし、そのうちの特定グループ(ターゲット)に向けて、あるいは各グループに向けてそれぞれ適切と思われる商品開発・広告販売をおこなうことが、多くおこなわれてきた。マーケティングやデザイン分野におけるこのような「ターゲット戦略」やライフスタイル分析など(いわゆるライフスタイルマーケティング)は、商品の開発・販売という限られた目的によるものであるとはいえ、消費行動という現代の生活様式の一部分を精密に捉えようとしてきた。この意味でライフスタイル論は現代の生活様式研究の一領域といえる。

デザインの基礎としての生活様式研究の方法

生活様式の諸相とその変動のありさまをとらえるには、さまざまの調査や研究の方法がある。代表的なものに、家計調査、生活時間調査、生活意識調査、住居学における住まい方調査、社会学におけるライフヒストリー調査、参与観察等のほか、海外との国際比較などが挙げられよう。なかでもデザインに特に関わりの深い研究のタイプとして、物質的な生活手段(モノ)の体系に着目する研究の系譜がある。

例えば、生態学の手法を借りて家庭内にある生活財(生活用具・用品のすべて)の徹底した悉皆調査を通して分析する「生活財生態学」は、家庭における商品の構成からライフスタイル・生活様式を探る試みであるが(疋田1986ほか)、これは考現学の創始者・今和次郎がおこなった「新家庭の品物調査」(1925)を受け継ぐものである。宮本常一門下による民具の徹底的な悉皆調査もまた考現学的調査の系譜に入る。

今和次郎は所有全品調査によって、「品物使用の変移と始末」「品物に現れる個人的特徴」「各階級の生活比較」について窮めたいとして、モノの保有状況からライフスタイルを明らかにする視点を先取りしているばかりか、「家の設計や、器具器物の新しい工夫のためにこの調査は有効である」と、デザインへの応用を指摘していた(今・吉田1930)。

考現学は社会の表層に現れる風俗を研究の対象とする立場をとったが、ここでいう風俗とは、「生活様相とも、生活様式とも、その他なんなりと適切な名辞があればはめ代えていい」とも言っている。生活様式という全体像としては目に見えにくいことがらを、その具体的な現前としての街頭の服装調査や家庭の品物を通して探る方法の試みであった。考現学の現代的継承は、デザイン分野における生活様式研究の今後の課題であろう。

また、考現学との直接の影響関係はないといわれているが、西山夘三は住居の住まい方調査をもとに住居学の体系化を進め、食寝分離論など後の住宅計画に貢献した。その西山は、生活科学を「生活様式の問題にとりくむ学問」だと言い、「現在の生活様式をどのように発展させてゆくべきかが、生活科学の課題」であるとしている(西山1977)。近年の住居研究では、住宅内での起居様式に着目し、近代以降に導入されたイス坐と伝統的ユカ坐のせめぎ合いを経た現在、生活全般の洋風化の中で劣勢になるかに見えたユカ坐への回帰現象が一部でおこっている(沢田1995)など、生活様式研究として興味深い発見もなされている。

デザインサーベイ

生活様式の研究には、日常生活に関わる風俗史や生活文化史、民族誌・生活誌、各種の統計的データなどの文献を利用することができる。近年では、現代の生活様式につながる高度成長期を中心とした「アメリカ的」生活様式の導入の経緯にも関心が向けられるようになった。しかし、デザインの立場からの生活様式研究として最も実りの多い方法は、デザイナーが自ら生活の現場(フィールド)に赴き、生活をつぶさに直接観察・参与観察するフィールドサーベイ、デザインサーベイであろう。

生活あるいは生活様式というものの全体的・総合的な性質は、実験科学のような分析的な手法によっては捉えがたい。そのため、デザインサーベイにおいては、これまでみてきたような多様な調査手法を駆使することが求められよう。さまざまなフィールド、つまりはさまざまな生活様式の現前の事例を数多く体験的に調査し、比較することによって、調査者であるデザイナー自らの視野を広げることができる。一般に、生活研究においては研究者自らもまた一人の生活者であるために、その視野も自らが体験してきた生活様式に規定されてしまうといわれる。この問題の解決は、自らの生活体験、フィールドで体験的に得た知見を、フィールド至上主義に陥ることなく、文献研究その他での知見と有機的に結びつけることによって可能だろう(宮崎1993)。

生活様式の近代化・現代化によって起こったこと

「近世以降の日本人の生活構造は、徳川中期までに原型ができ、明治期に定型化が行われ、大正・昭和期にある変貌を受け、最終的にいま解体しつつある」(日本生活学会1974)との見解にみるように、近代以前の生活様式(構造)の基層の上にいったん築かれた近代的生活様式は、現在、その解体と変容が進んでいる。これを資本主義社会下における生活の分解・荒廃化とみる指摘もあるが、むしろ次代の生活様式が生まれ、定型化するに至る過程での混乱・流動化の現象とみるべきだろう。

流動化の中にあるはずの現代の日本の生活様式には、しかし、すでに画一化・同質化された部分が少なくない。耐久消費財の普及、生活財全般の商品化、情報機器やメディアの発展などの当然の帰結でもあるが、住様式においても、電気・ガス・上下水道・電話通信網などの都市的インフラを前提とし、2DK、3LDKなどのDK・LDK様式が一般化している。好むと好まざるに関わらずこれらが現代の生活様式として優勢なのは明らかだろう。かつて、地域・生業・階級などによってさまざまだった生活様式が、互いによく似通った同質的なものになった結果、共通の尺度による生活研究が可能になり(川添1982)、また、そこに新たに微細な差異を見いだし、ときには積極的に差異を作り出そうとさえする前述のライフスタイル・マーケティングの考え方も生まれたのである。

デザインの課題としての生活様式提案

これまでのデザインは、主として生活様式を支える物的手段をつくり出す役割をになってきた。では、これを一歩超えて、トータルな生活様式そのものをつくり出すことは可能だろうか。確かに、デザインされた箇々のモノは、たとえ部分的でささやかなものであったとしても、何らかの生活提案・生活イメージを含み込んでいる。しかし、それらは生活様式の分解・流動化を促進することはあっても、トータルで安定した生活様式にはむすびつきそうにない。個別的な生活提案を重ねるとともに、デザイン以外の他分野との融合を含めてなにか大きな思考の転換が必要とされているのではないだろうか。

参考文献
  • 吉野正治『生活様式の理論』光正館1980, pp17-21,82-88
  • 西山夘三[生活科学と住居学」西山編『住居学ノート』徑草書房1977、pp1-17
  • 川添登『生活学の提唱』ドメス出版1982.pp216-220
  • 沢田知子『ユカ坐・イス坐:起居様式にみる日本住宅のインテリア史』住まいの図書館出版局1995
  • 今和次郎・吉田謙吉『モデルノロジオ(考現学)』1930(復刻版・学陽書房1986)pp155-172
  • 疋田正博「生活財の生態学」、今・吉田、前掲書 pp.388-397 、および、商品科学研究所・CDI『生活財生態学:現代家庭のモノとひと』リブロポート1980
  • 真島俊一「間取りと生活」日本生活学会編『生活学論集1:民具と生活』ドメス出版1976
  • 宮崎清「フィールドサーベイによるデザインの過程」森典彦編『インダストリアルデザイン:その科学と文化』朝倉書店1993,pp112-119
  • 日本生活学会「生活学の方向と生活学の内容」『生活学会会報』創刊号1974
(初出:日本デザイン学会編『デザイン事典」朝倉書店)