食卓上のUFO?:1940年代アメリカのワッフルアイアン

1940〜50年代のアメリカ調理家電市場には、現在の日本からみても過剰とも思える一連の機器があった。初期の小型調理家電は20世紀初頭から1920年代までの間に多くが試行されている。1930年代の家電メーカーの製品ラインアップには、トースター、パーコレーターの他、ワッフルアイアン(ワッフル焼き器)およびそれから派生したサンドイッチ・トースター、さらに、ゆで卵つくり器、ポップコーン・ポッパーに至るまで、食卓上での使用を前提とする一連の小型調理家電が見られた。

ワッフルアイアンはその代表的製品のひとつ。その電化以前の鋳鉄製のワッフル型(本来のワッフルアイアン)は1920年代の通販カタログにも見られる。電気式ワッフルアイアンは調理レンジの上で使うワッフル型と同様の用途をもつものだが、最初期のものは業務用であったろう。家庭用としてはおそくとも1920年代末には丸形の定型が成立している。その後30年代頃から、ワッフル専用ではなく、焼き型を交換することでサンドイッチ・トースターやグリルの機能を併せ持つ角形タイプが現れ、これが50年代以降では主流となる。

「アメリカ的」料理の特性として、種々の調理済み食品の利用があげられるが、これはワッフルにも当てはまる。ワッフルのレシピはもともと各家庭で独特のものがあったが、1930年代頃にはすでにワッフル専用粉が商品化されている。また機器メーカー各社はワッフルアイアンを使ったレシピを開発し、レシピ集として製品の付録につけるようになる。機器に付随したレシピの開発と、機器にあわせた食品の開発・商品化とは、ワッフルに限らず、その後のアメリカの食文化に大きく影響したと考えられる。

小型調理家電の外観デザインに関しては、1930年代半ば頃からこのモデルのような流線型やアール・デコ調のディテール処理などが見られるようになり、インダストリアルデザイナーの関与がうかがわれる。1950年代になるとボディ全体をクロームメッキ処理とし、ハンドルやベース、調節ダイヤル部を黒いプラスチックとすることが定型となった。

50年代の「ポピュラックス」とも称される豊かなアメリカの消費文化の中で、ますます多くのメーカーがこの市場に参入している。ワッフルアイアンのメーカーは全米で80社以上もあった。このような人気の理由のひとつとして、この分野の機器がしばしば「ギフト」として購入されていたことが思いあたる。クリスマス・シーズンなどの(夫から妻への)贈り物として広告宣伝されることは1920年代からすでにあり、結婚する花嫁に親戚友人が新家庭で使う品々を贈る習慣がある中で小型調理家電が選ばれることが多かった。1950年代にはギフト用アイテムとしてかなり定着したと見られる。基本的熱源としての汎用レンジと手道具があればたいていの料理は事足りる。しかし、機能特化した小型の機器があればさらに調理が便利に、また楽しくできる。ギフトとして贈り合うのにも、このサイエンスフィクションに出てくるような外観をもつワッフルアイアンは、きわめて好都合だったかもしれない。

今回の展示品は、GE(ジェネラル・エレクトリック)社のワッフルアイアンのうちでも最もポピュラーだったといわれる流線型モデル(Model 119W4 "Westport", Design: A. Propernick,1939)である。このモデルのデザイン・パテント図を発見したが、出願者プロパーニック氏はおそらくGE社のインハウスデザイナーであろう。

ところで、戦後日本はアメリカの豊かな家電文化にあこがれ、家庭電化ブームとなった。しかし、なぜかワッフルアイアンだけは導入されなかった。ワッフルなんて知らなかったから? 甘ったるいワッフルよりも、ソース味の「粉もん」が好きだったから? 日本では家電は贈り物などではなく、もっと切実な生活便利化の願いを実現するものだったから? いったいなぜ? そんな問いも含め、世界各地の家電とその文化を比較する研究会を始めてみたい。

道具学会FORUM2007展示発表要旨