米国における小型調理家電の発展過程 - 1920〜50年代を中心に -

家庭電化製品は「アメリカ的生活」をシンボライズするものといわれる。なかでもキッチンで使われる調理用家電製品の多くは米国で発展・普及し、それらを多用するライフスタイルとともに、後に日本を含む多くの諸国の製品に影響してきた。大型家電としての冷蔵庫や電気レンジの普及がアメリカの台所、ひいては食文化までを変化させてきたことはこれまでも多く語られているが、これら高額な大型機器とともに、モーターや電気発熱体を応用した小型の、さまざまな調理家電が製品化され、多くの製造メーカーが市場に参入していたことも忘れてはならないだろう。

小型調理家電は、キッチンでの本格調理の「労働軽減」を意図したミキサーなどを別にすると、主としてダイニングテーブル上での簡単調理に好適と宣伝されることが多かったことからも、決して日常の調理の主役となる機器ではなく、例えば、忙しい朝食時などに便利な脇役として良く用いられた。この代表的なものとしてアメリカ以外の国々にも広く普及した機器がトースターやコーヒー・パーコレーターであるが、1950年代のアメリカ調理家電市場には、この他にも、ワッフルメーカー、ブロイラー、スキレット(フライパン)、サンドイッチ・トースター、複合型の卓上調理器など、現在の日本からみるとやや過剰とも思える一連の調理家電機器があった。

これらの「アメリカ的な」小型調理家電は、どのような経緯で成立・発展してきたのだろうか。家庭電化の流れや消費文化全般の動きの中で、これらの機器はどう位置づけられるのか。また、これらの小型調理家電は、日常的な食文化とその変化にどのような関わりがあったのだろうか。その製品デザインにはインダストリアルデザイナーがどのように関与していたのか。これらの問いに答えるために、本発表では、アメリカならではの小型調理家電のいくつかについて、その普及に先立つ1920年代〜30年代の登場時(農村部の家庭電化の遅れからその普及は都市部に限られていた)から、1950年代の一定の普及までの過程をたどり、この間の製品デザインの変化や広告レトリックにも言及しながら、この特異とも思える一連の機器の発展について考察する。

考察の資料として用いるのは、当時の製品カタログおよび広告、広報物のほか、家庭用品業界史、食文化史、産業技術史などの各種第2次資料文献、当時の家庭電化啓蒙書、家政学副読本などである。

この考察を通して、アメリカにおける家電製品史の一断面について理解を深めることをめざすが、このような事例研究は、アメリカの強い影響のもとに発展してきたといわれる日本の家電製品史と相互に比較することによって、それぞれの特性をいっそう明らかにできるはずのものである。今回の発表においては充分に触れることはできないが、そのような今後の比較研究につながる可能性も示唆してみたい。

(意匠学会第 回研究発表大会要旨)