東京から彦根に移り住んで

東京でのサラリーマン時代は、今から思うとずいぶん仕事中心の生活をしていた。ふだん帰宅するのは子供もヨメさんもすでに寝た後だったし、休日出勤も多かった。それでも仕事はおもしろく、子供と過ごす時間がないなど、働きすぎることの弊害に気づくことは少なかった。

当時の私の実感では、家族を忘れるほどに没頭しなければ仕事の多くはやり遂げられなかったし、そいういう姿勢が仕事上の信用を生む場合さえあった。そんな東京暮らしの後、私の転職のために家族そろって彦根に移ってきた。翌年には次女が生まれ、私は二児の父となった。

東京時代に比べると、現在、家族といっしょにいる時間は大幅に増えている。朝はヨメさんが長女を幼稚園に送ってきた後に出勤し、だいたい夕食前には帰宅している。今では当たり前のように感じているが、平日に家族といっしょに夕食をとることなど、東京時代にはほとんどなかったし、それを特に不自然とも思っていなかった。

しかし、家族とともにいる時間は増えたものの、私が子育てのやり方はあまり上達していないらしい。仕事中心の東京時代に生まれた長女はしかたないにしても、最近は3歳の次女まですっかりお母さん子になってしまった。風呂に入るのも寝るのも母親といっしょでないと承知しない。私のやり方がまずいのか、ただ慣れていないせいなのか。多分、わが家に限らず、父親の子育てにおいては、平日の昼間からいっしょにいる母親と同じようなわけにはゆかないのだろう。少しくらいやりかたがまずくても、ヘマをやらかしても、怒らずに大目にみてもらいたい。

いまでは、多くのお父さんたちが、楽しいのは仕事ばかりではないことを知っていると思う。特に、子供たちの人生で最もかわいい時をずっとそばで見ていられるのだから、小さな子供の世話は大変だけれども楽しい。でもなかなかそれに時間も精力もかけられないのは、やはり依然として仕事の重荷が大きいからだ。

お父さんたちの理想的な子育てのためには、仕事中心の社会がもっと変わること、そして、働くお父さんたちの人生観が変わることが必要なのだろう。しかし、私よりずっと若くて(ちなみに私は39歳で父親になった)溌剌とした彦根のお父さんたちを公園や幼稚園で見ていると、そういう変化のきざしはすでに現れているようにも思える。

(彦根市PTA連合会「子育て体験文集」平成10年頃)