県大ミニ博物館 過去に実施した展示の紹介

幸運の豚 (1999年度)
展示企画者 一之瀬奈美(人間文化学部)
1.展示の趣旨
 何気なくブタ貯金箱を見てきた人の「何故ブタなのか」という小さな疑問を解決し、またブタの飽くなき食欲に嫌悪感を抱く人にも裏返せばそれは物を蓄える象徴になることを理解してもらう。

2.展示品の一覧
(1)オーソドックスなタイプ 日本製 陶器 (いわゆるブタの貯金箱。)
(2)立ちブタ 日本製 陶器 ((1)ブタが立っている。)
(3)親子ブタ 日本製 陶器 ((1)の豚が親亀小亀状態でおんぶしている。)
(4)右寄り目 日本製 陶器 ((1)と同じデザイン。目が左寄りで、釉薬がかかっていない。)
(5)素焼き風 日本製 陶器 (まん丸な胴体部。素朴な感じ。)
(6)金属ブタ ドイツ製 アルミ (ドイツらしいシャープなデザイン。)
(7)木の実ブタ マレーシア製 瓜 (瓜の形をうまく生かしている。細やかな顔の周りの彫刻に注目。)
(8)豕 中国製 プラスチック (ほかのものよりもリアルで愛嬌のあるデザイン。)
(9)福ブタ 中国製 ゴム (番外編。貯金箱ではないが、財布に入れるとお金が貯まるという。私は入れたことがない。)

3.展示パネル
ブタ=不潔?幸運?

 一般的に「ブタ」というとすぐに「臭い、汚い」というイメージが浮かんでくる。これはいのししに由来する理解しにくい行動、つまり泥んこ遊びや土を掘り返すのが好きである、土や糞を食うといった性質のためであろう。しかし

 泥んこ遊びはブタにとっての「行水」にあたる(体についた寄生虫を取るため。だからけっこうきれい好きと言えるのかも。余談だが、昔『泥んここぶた』という絵本があった。)のだし、土を掘り返すのだって人はその性質を世界三大珍味のトリュフをとるために利用している。土や糞を食べるのも栄養上欠くことのできないミネラル分がそれらに含まれているからだ。ブタにだってブタなりの理由があって「不潔」なことをしているのだ、ブー。
 しかし、そうはいっても昔からブタは軽蔑や憎しみを表現する際によく使われている。ヨーロッパでは何かの競技の際、ビリの者に与えられる賞品がブタだった。ところがその軽蔑の対象であったブタは成長すると?多産であること?肉が非常に有用であること、からかえってその家に富をもたらすことが多かった。ここから「幸運の豚」というイメージも生まれてきたのだ。

ブタの貯金箱
 ブタはその多産な様子(最大なんと18頭!)と、ものをよく食べて体に蓄える性質のため、幸運・富裕のシンボルとされるようになった。そしてその象徴性と丸くふくらんだ形から「ブタの貯金箱」ができた。
 古いものとしてはドイツ、テューリンゲン北部のビレーベンで13世紀のものと思われる豚の塑像が掘り出されている。長さ22センチほどで、中空で背中に細い穴のあいたその塑像は赤茶色の粘土でできていて、たれた耳と巻いたしっぽという明らかな家畜ブタの特徴をあらわしている。
またブタの貯金箱はその他の地域でも独自に発展し、19世紀になるとあらゆるタイプの中でもっとも普及したデザインになった。現在アメリカでは「ピギーバンク」が貯金箱の名称となっているほどだ。

その他のブタ
 貯金箱のほかにも富裕の象徴というブタのイメージを生かした(?)品物はたくさんある。
古いところでいえば漢代(BC220〜206)の墓からはトイレ(排泄物がブタのえさ)などのさまざまな豚の塑像が見つかっている。おそらく来世での富を生み出す象徴として使われたのだろう。
 同じく紀元前3世紀の共和制ローマでは表にブタの絵の描かれた長方形の銅の貨幣がつくられた。中世になるとブタがデザインされた貨幣は主に私鋳銭で風刺の対象として使われた。近世になるとまた国家がブタのデザインの貨幣を鋳造するようになった。1921年にはドイツ、テューリンゲン地方などで25ペニヒ緊急紙幣まで発行された。
 ほかにドイツでは1ペニーを背負ったブタを贈り物にする習慣があるという。

4.参考文献
『貯金箱の本』 森宣子 新風社 1996
『貯金箱ブタ君にも歴史あり』 森宣子
日本経済新聞 文化欄1989
『ブタ礼賛』 HDダネンベルグ 博品社 1995
『貯金箱』 山村定雄・龍雅之輔
保育社 1993


 展示の選択へ
   はこちらへ takahashiyoshikuni@hotmail.co.jp