滋賀県立大学 高橋美久二のページ

研究室の調査活動 荒神山古墳の調査 
荒神山古墳とは
【所在地】
 彦根市日夏町日夏山、清崎町山之腰、三津屋町山ノ丁、石寺町石流の4町にまたがる丘陵の尾根線上で、荒神山の頂上にある荒神山神社の北側背後。

【墳形と時代】
前方後円墳(全長114m)、古墳時代前期(4世紀) 
※最近行なわれた発掘調査で全長が124mに修正されました

【立地】
荒神山頂上、標高278m

 荒神山古墳は、従来は一部の研究者に知られていただけで、その墳形や規模、年代等はよくわかりませんでした。そのために、近江の古墳時代(3〜7世紀)史の中に正当に評価されていませんでした。今回、その実態を明らかにするために、測量調査を行い、大きな成果をあげることができました。




測量調査の経過
 調査は平成14年3月17日から24日まで計8日間かけて行ない、さらに4月3日から5日まで補足調査、さらに室内作業で図の整合・製図をおこない、また採集された埴輪の整理をおこなうことなどによって、今回報告できるような図面を作ることが出来た。調査には、彦根市史編纂室職員と滋賀県立大学人間文化学部の教員、学生が参加しておこなった。 
 測量調査は1/100の平板測量を行い、50cmごとに等高線はとることとした。標高値は、古墳の東方の三角点(標高262.0m)から移動してきて使用した。等高線は後円部の頂上の278.0mからはじめて、後円部の裾の264.5m付近の等高線、さらに下方の自然地形の260.0m付近までの等高線を引くことによって、測量図を完成させた。


測量調査の成果
 測量の結果、荒神山古墳は、全長約114m、後円部の直径約64m、後円部の高さ約13m、前方部の長さ約50m、同幅約43m、同高さ約5mの前方後円墳であることが判明した。この大きさは、安土町の安土瓢箪山古墳の全長134m、大津市の膳所茶臼山古墳の全長120mに次ぐ、滋賀県下第3位の規模である。
 この古墳には、埴輪・葺石・段築という古墳の外部施設の3要素をすべて備えている、きわめて典型的で整った形の古墳である。
 埴輪は、この古墳が前方後円墳であることが確認されるきっかけになった、前方部西北隅付近に設置された遊歩道周辺で集中的にみつけられるが、今回の測量中に墳丘の各地点で細片がみつけられた。このことから、畿内の典型的な古墳のように墳頂部や各段、墳丘裾に、埴輪が立て並べられていたものと推定される。埴輪の種類は、円筒埴輪、朝顔形円筒埴輪が確認されるほかに、家形埴輪とおもわれる破片もある。埴輪から見た古墳の時期は、円筒埴輪編年の2期または3期(4世紀後半〜5世紀前半)にあたる。
 葺石は、前方部や後円部の墳丘斜面の各所で、こぶし大の山石(湖東流紋岩)がみられることから、その存在は確実である。しかし、現状では崩落したものか、原位置を保つものか、墳丘内に混じっているものかの区別は判断しにくい。
 段築は、前方部の中段に平坦面が続き、後円部の東側には、中段に二段の平坦面がみられる。このことから、後円部は三段、前方部は二段の段築のある、大規模前方後円墳に典型的にみられる段築の形である。ただし、古墳には造営後の自然崩落、一部中近世による変形が見られ、段築をはっきりと確認することが出来ない部分もある。
 内部施設については、現状ではよくわからない。ただし、後円部の墳頂部に東西方向の大きな既掘穴があるが、竪穴式石室の石材などは散乱していないことから、木棺を粘土で覆う型式の粘土槨といわれる内部施設があったかと推定される。
 出土品についてもよくわからない。ただし、荒神山の麓の延寿寺には、荒神山にある古墳から出土した遺物が、多く伝えられている。多くは荒神山に多い古墳時代後期(6世紀)の古墳の出土品であるが、1点だけ古墳時代前期の遺物として車輪石とよばれる、腕輪形の石製品の破片がある。これが、荒神山古墳から出土した可能性がある。

荒神山古墳測量図  


延寿寺の車輪石   

荒神山古墳の意義

1,近江第3位の規模の大古墳であることが確認されたことで、近江の古墳時代史の再検討が必要となった。
(最近彦根市教育委員会で行なわれた発掘調査によって、さらに埋没していた古墳の裾部分が確認されました。全長が124mに修正されたことによって、荒神山古墳は近江第2位の規模であることが明らかとなりました。)
2,山頂という立地や墳形、埴輪などからその築造年代は古墳時代前期と考えられる。
3,荒神山古墳は、埴輪・葺石・段築という古墳の外部施設の3要素をすべて備え定型化した畿内的な古墳である。
4,従来の近江の古墳の首長系譜では、空白であった湖東平野の首長墓の系譜を埋める中心的な古墳である。


調査参加者
高橋美久二 早川圭 中川穂花 古関大樹 西中久典 大島尚恭 内田和典 清原光治 松吉真弓 桑山章子 田中梨絵 増田洋平 石井実樹 大木要 大西襟梨子 江竜喜信 小椋清和 小林隆


スクラップ 〜測量図ができるまで〜


 平板測量;原図を作成します

 レベル;等高線を算出します

 光波測距器;正確な距離と方位の算出中


★こうした3つの作業を経て原図がつくられます。それを調整・トレースすれば、上のような測量図が完成します


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