滋賀県立大学 県大ミニ博物館 2005年度の展示紹介

本のあやとり 界のあやとり
展示の趣旨

 あやとりはその気軽さにより、昔から様々な国・世代・場所で遊ばれてきました。紐という身近な材料を用いて、ホウキや松葉、お月様など様々なものに見立てて遊びます。国や地方によって呼び名が違うことも面白い要素の一つと言えます。想像力や感性を駆使して遊ぶあやとりは、テレビやパソコン、テレビゲームに夢中になっている子供達に新しい感動を与えることでしょう。
 ですが、完成品が形として残る折り紙とは違い、あやとりは完成したものを崩してしまうため、他の伝承遊びよりも忘れ去られる危険性が高いのです。そこで今回は、この展示を通してもう一度あやとりの素晴らしさを再認識してもらおうと思います。

あやとりの歴史
江戸時代のあやとり記述
 あやとりは大昔から遊びとして、コミュニケーションの重要なツールとして広められてきました。
日本であやとり遊びの情景を描いた最古の文献は、享保九年(1724)に刊行された木版絵本『絵本大和童』です。作者は京都在住の美人画絵師、西川祐信、重陽の節供(旧暦九月九年)の場面、菊の花遊びをする子供達のかたわらで、二人の女の子が
「いととり」をしています。
 その他にも、井原西鶴の『好色一代男(1682)』や、喜多川守貞の『守貞』謾稿(1853)』などであやとりと思われる記述が見られます。

明治以降のあやとり記述・岡本太郎のあやとり論

 明治・大正期に入ると、今度は作家の竹久夢二が『日本童謡集〜あやとりかけとり(1922)』を出版し、その中で地方のあやとりを収集しています。昭和に入ると、芸術家の岡本太郎は著書『美の呪術(1970)』で次のように述べています。


綾とり−−稚い女の子、小さい、優しい指がささやかに紐を操る。
一すじ、一すじ、引き張られ、糸は互いにからみあい、くぐり抜けて、形を変える。
 何も知らない、きゃしゃな指だ。鮮やかに糸の端々をつまみ、引き抜き、かきのけ、ひらく。
まるで運命を導いてゆくような、眩惑的な指の遊び。
一本一本の糸の隙間から、ふと宇宙がひろがってゆく。
すると、ほかの女の子の指が、さらにそれを突き刺す。

ひねる。
しぼりあげる。

さっと、新しい彩りで別の空間がひらける。
まさに無限の変幻である。
透明なイメージが私の心によみがえってくる。
目の前で、呪文のようなサインが刻々と変転してゆく。

その鮮やかさ。
ハッとする。


断絶と連鎖のセンセーショ ン。
自然現象の雨とか風、太陽の循環のように巨大ではない。
だがこのささやかなドラマの戦慄は深い。
私はあの無限の彩りに、自分の手の届かない運命が繰りひろげられてゆくような思いがする。


解説パネル
代表的な世界中のあやとりの分布を、世界地図と共に分かりやすく紹介します。



あやとり展示品の内容

発泡スチロール・割り箸・糸を組み合わせて、世界中のあやとりを立体模型で展示します。


日本のあやとり
基本形

ホウキ
カニ

世界のあやとり
アパッチ・ドア(ナバホのネイティブ・アメリカン)
蚊(パプア・ニューギニア)
カモメ(エスキモー)
ひざなどに置くあやとり

タコ
ウナギ

展開するあやとり
四段ばしごから → 富士山 → 東京タワー

3〜4人でするあやとり
立体東京タワー

解説
基本形
・・・・日本に伝わるあやとりの多くは、この形をベースにして作られます。また、外国では違った形がベースになったりしています。

ホウキ・・・・・日本に伝わるあやとりの中で大変ポピュラーなものの一つです。作り方も易しく、大変上手く見立てられています。

アパッチ・ドア・・・・アリゾナ州北部、ニューメキシコ、そしてユタ州にまたがる広大な保留地に住むのがナバホ族です。
彼らは大変手先が器用で、その織物は世界的にも有名です。
アパッチ・ドアというのは、彼らの生活の中で良く見られる格子状の扉のことです。

四段ばしご・・・・・・あやとりは完成した作品が次々と別の作品に姿を変えるところが醍醐味です。
        この四段ばしごという作品は、様々な別のものに変化します。

立体東京タワー・・紐を4〜6本使って3人がかりでする、大変珍しいあやとりです。


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