県大ミニ博物館 過去に実施した展示の紹介

Thimble〜芸術作品としての指貫〜 (2000)
展示企画者 北川 千秋(人間文化学部)
1.展示の趣旨
 <thimble―シンブル>日本ではあまり馴染みの薄い言葉であるが、実は日本語でいう「指貫き」のことである。シンブルは裁縫道具の一つで針の頭を押すときに使い、針で指に傷がつくのを防ぐ役割を持つ。しかし裁縫道具の一種に過ぎないシンブルは、ヨーロッパを中心に時代を超えて愛されてきた宝物であるということをご存知であろうか。実用的なシンブルだけでなく鑑賞・装飾用としてのシンブルが数多く作られ、その美しい装飾ぶりでコレクターがいるほど人気がある。そこで私はシンブルの奥深さを知ってもらいたいと思い、主に装飾を施したシンブル20点を展示することにした。展示品を通じて、シンブルは昔から世界各地の生活に密着してきたものであり、また様々な装飾を施した、いわば<芸術作品>であることを知っていただければ幸いである。

2.シンブルの歴史
 西暦100年ごろに編集された中国の字典によると、「指沓」という指先にかぶせる靴のようなものが登場したという。日本や中国・朝鮮半島では、わたや布・皮・紙などを重ねてシンブルをつくっていた。なかでも日本では針を強く押す和裁向きのリング形が多くつくられ、大正時代に入ると金属や皮製のものが市販されるようになった。
 欧米のシンブルは中指にかぶせて使う。シンブルの語源はサム・ベル(Thumb-bell)といい、元来は親指の先にかぶせた鐘の形をしたものであった。16世紀から銀製品のシンブルが量産され、銀や金製・陶製なども登場した。また実用的なシンブルだけでなく、鑑賞・装飾としてのシンブルが作られるようになった。

3.芸術作品としてのシンブル
 シンブルは時代を超えて用いられる裁縫道具のひとつであり、陶器製・鉄製・銅製・ニッケル製・皮製・プラスチック製・真鍮製などがある。100年以上前につくられたシンブルは銀製が主であり、現在では高価なものである。ヨーロッパなどでは実用のシンブルだけでは物足りなかったのか、鑑賞用としてのシンブルがつくられた。鑑賞用のシンブルの型は様々で、なかにはまるで何かのオブジェのようなものもある。普段は目立たなく地味な存在のシンブルではあるが、実は様々な装飾が施された芸術作品であり、時代を超えて人々に愛されていたことがわかる。

4.シンブル豆知識
 手芸以外の用途で人気が急上昇したシンブルは、現在の欧米では収集アイテムとして人気がある。またシンブルは今や海外のおみやげ屋さんの必須アイテムでもあり、国の特徴を表現したデザインのシンブルを海外旅行のお土産として選ぶ人が多い。
アンティーク店には高価な装飾的シンブルや、各地方の独特の絵柄が施されたシンブルなどがあるが、製造業者や年代によってデザインが様々である。
 おみやげシンブルが作られるようになったのは、イギリスのビクトリア女王の戴冠式(1837年)が始まり、その記念のノベルティーのなかにシンブルが仲間入りしたことで、シンブルが人々に親しまれてからである。その頃アメリカでは、奇抜なデザインのシンブルが次々と登場し、主に英米ではシンブルの特許ブームが起こったという。

5.展示内容
 主に装飾を施したシンブル20点を展示した。これらのシンブルは海外旅行のお土産としてもらったり、アンティークショップや骨董市で購入したものである。素材は陶器・金属・木製・ボーンチャイナ(骨の粉の陶磁器)・シロメ(スズを主体にした鉛・銅・真ちゅうなどの合金)などがあり、また生産国もアメリカ・ロシア・オーストリア・イングランドなどと様々である。
展示したシンブルの形も様々である。ノーマルな形のものや、ロシアの建造物を模倣したもの、シンブルの表面に白鳥の親子の様子を彫刻したもの、フクロウの形のものなどがある。またシンブルの表面に生産国の風景を描いたものもある。
シンブルそれぞれに生産国・素材・特徴のキャプションをつけて展示したが、中には素材・生産地が不明なシンブルが何点かあった。それは、シンブルの内側に素材・生産地が記載されていないためである。

6.シンブルの種類と使い方
まず、シンブルの形は用途によって2種類に分けられる。ひとつはリングの形をしたシンブルで、これは和裁や布を縫い合わせる時に使う。もうひとつは指にかぶせるタイプのシンブルで、パッチワークやキルティングの時に使う。
 リング形のシンブルの使い方は、シンブルを右手の中指の第2関節にはめ、針を親指と人差し指で持ち、針の頭を指貫の甲側で押しながら縫う。
 一方指にかぶせるタイプのシンブルの使い方は、シンブルを右手中指にはめ、針を垂直に立ててシンブルの頭で針の頭を押しながら縫う。
 ちなみに展示品はすべて指にかぶせるタイプのシンブルを装飾したものである。
現在のシンブル
 現在のシンブルは一般的なリング形から、パッチワーク用、針を引き抜くためのものなど用途も専用的になり、形もまた用途に対応している。

7.参考文献
『HERB ハーブ通信』1990年 誠文堂新光社
『CRECER』 1996年 クレセール編集室
『ロンドンアンティーク物語』1993年 小関由美 笹尾多恵 東京書籍
『ちょっとグレードアップロンドンアンティーク物語』1997年 小関由美 笹尾多恵 東京書籍


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