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西伊豆町立伊豆海幼稚園

西伊豆町立伊豆海幼稚園設計=GK設計 施工=堤工務店

静岡県賀茂郡西伊豆町 構造=木造 敷地面積=l,674平方メートル 床面積=356平方メートル 規模=2クラス、40人

●計画の背景

 日本一の夕陽を誇りとする,この街の人たちは.自然がもたらす豪快な心象風景にどっぷりと漬かって生活している. 幼児期の体験と記憶が,自分自身の大きな財産となることをはっきりと理解している人たちである. 街の高齢化がもたらす彫りの深い文化を,若い人たちに伝え,新しい活力づくりを支援していく方法はないものかと,皆が考え始めていた. 減少する園児数と園舎の老朽化に伴い,新築の話が持ち上がったのは,まさにこれらの意識の芽生えと同時であった. 

 数年来,ここ西伊豆町役場において運営されてきている“街づくりデザイン会議”のメンバーたちが.企画に調整にと奔走した結果.この小さな施設が,

街づくりのテーマにもなるほどの大きな目標となっていったのである. 自然景観,街並みの記憶.高齢者との交流,街の磁場づくりなど,街づくりに関係する要素を,子供の教育の場に設えることを.何度も確認し合った. この幼稚園は,これら盛り沢山の期待を.一手に背負わされることになったのである.

●立地集件

 鰹漁港として栄えた田子港の海岸沿いに,この幼稚園は位置している. 迫り来る山並みと,潮の香りに育まれた古い港の風景の傍らにある. 既設の保育園舎と敷地を共有し,お寺に隣接した公共性の高い場所である. つまり.お寺の境内の感覚で,気軽に立ち寄れてしまうほど,開放的な雰囲気を備え

持った場所といえる. 今回のような計画を遂行するには最良の立地であった.

●計画の概要

 木造で始めることについて.誰も迷いはなかった.県からの補助を受けていたこともあり,木造という前提条件は決まっていたわけであるが,それをなしと考えても皆,共通の認識を抱いていたのである.木の肌触りと,歳月を経た時のエイジング性は,誰もが憧れるものである. 機能的な計画としては,遊戯室をアイランド型として独立させ,保育園側との共有性を高めている.街の集会場としての機能も兼ね備えているため,他の棟との差別化を,空間的にも形態的にも図っている. また,360°周囲を開放的に窓をとり,一種の四阿的な様相をつくりだそうともしている.

 この方形屋根は,これまで街が進めてきた公共施設整備でも,共通して使われてきた形態であり,地域のアイデンティティといえるものである. 耐力壁を持たない大屋根構造がもたらした.天井の大きな四角錐をつくるフレームに,膜を設えトップライトから差し込む光を柔らかくしている. 夜にはこの四角錐を雪洞状に光らせて.屋内照明として機能させている. 屋根から突き出た芽と大きな球根の芯にも似た四角錐が,園児の芽生えを暗示しているのである. 周囲を取り囲むように隣接している職員室,保育室のフリンジには,膜構造のシェルターによる回廊を設け,全体としての連続性をつくりだしている.

またこの領域は,屋外と屋内をつなぐ半屋外的な曖昧な中間領域として,内外の空間の自然な融合を図っている.

 この街には裸足で屋外に何の躊躇いもなく飛び出して行ける子供が,まだ多くいるのである. 細かなところに眼を凝らしてみると,ひとつの共通したイメージがあることがわかる. 例えば,照明器具については.船舶灯を主に使用して展開している. 屋内外での耐候性に優れ,安価なこともあり,港の風景にはうまく溶け込んでいる. また,軽い膜シェルターについても,漁船のイメージを感じさせ,仮設的にイベントごとに大漁旗などの演出が可能なフックも準備されている. 真っ白いオイルペイントで重ね塗る荒っぽいメンテナンス方法についても,いい意味で港のイメージを求めているのである.

 園児たちも大人たちと同様の環境で育つことにより,記憶を共有していけるのである. 滑り台,砂場,鉄棒といった遊具としての三種の神器に縛られないで,遊び場を発見していってくれることを,園児たちに期待したい.

 園児数の減少は,この幼稚園に施設機能の増大と進化をもたらした.街に新たな記憶と誇りを育んでいく施設として,皆で見守っていきたいものである.

(GK設計:印南比呂志)

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