・ 既成の評価やカテゴリを使うのではなく、探すこと
・ 既成のカテゴリーに基づいて記述するのではなく、新たな記述の方法を探すことしかし、既成のカテゴリーを手がかりに「注目する」ことは可能
・ 既成のカテゴリーに従うのではなく、既成のカテゴリーに道案内してもらう(「指輪物語」におけるフロドにとってのゴラム)。
・ なんらかの装備(ツール)はあったほうがよい。
・ 地図はあらかじめない(jump aheadできない)。が、地図を作りながら歩く(シークエンスで考える)ことはできる。
・ 小文字のq:
「後で質的データと照らし合わせるために(あらかじめ)仮説やカテゴリーを決めてから、研究を始める」:
仮説演繹的、理論検証型
・ 大文字のQ:
オープンエンドで帰納的、理論生成型
・ 映像データのスタンダードな評価方法や尺度の紹介
装備の細かい説明(パソコンの機種別インストール方法、各種コマンドetc.)
・ 旅への誘い(映像を見たいという動機づけを高める)
・ 既存の評価尺度やカテゴリーについて考え直すためのいくつかの手がかりの紹介
・ 映像とアイディアを結びつけるためのいくつかの方法の紹介
・ 映像のシークエンス分析
・ 映像を用いた各種記述ツールに「何ができるか」の紹介
・ 映像を撮影・録画する(ビデオカメラ・HD録画・DVD録画etc.)
・ パソコンに記録すると再生に便利
・ ひたすら分析する
しかし・・・
・ 撮影したテープのほとんどは見ていない。
・ この前、見直していて「これは使える」と思ったが、どの映像だかわからなくなった。
・ なぜ「使える」と思ったのか忘れた。
・ いいアドバイスをもらったのだが、どのテープのどこに入っているのかもはやわからない。
学生に評定はしてもらえばいいから、いちいち映像を見る必要はない。
・ 映像を見て何をするのか?
・ 映像とアイディアをいかに結びつけるのか?
・ その結果をいかに効率よく保存し呼び出すか?
・ 映像に収められるコミュニケーションは研究者によって一方的にコントロールできない(しばしば研究参加者は逸脱する)
・ 逸脱には逸脱なりの規則がある
(西阪 1999)
・ 映像データには、研究者があらかじめ手に負えない細部が埋め込まれている。(後述)
・ コードが先か?カテゴリーが先か?
必ずしもコードの方が精緻でそこからカテゴリーが生まれるとは限らない
(ただしウィリッグ p49)
コーディングじたいがカテゴリーによって覆われてしまう例→次スライド
・ 「起きあがる」「目が合う」?
・ AIBOが起き上がったのにXは驚いたが、そのあと顔をのぞきこみ、目が合い、お手をした。
・ 「起き上がる」「驚く」「のぞきこむ」「目が合う」といったカテゴリーは研究者の目的・関心のありかを反映している。
・ 当事者は初めての動きを見た瞬間「起き上がるぞ」と判断できるのか?それはビデオを最後まで見た(jump ahead)した者の感覚ではないのか?
・ 行為者を分ける。
・ 必要に応じて行動もモダリティごとに分ける(右手・頭などなど)。
・ 行動の連鎖を各ステップごとに考える。
・ 先走りJump aheadしない。
・ → 実際の分析
・ AIBOが「起き上がる」という行動は、じつは二つのアクション・カテゴリーからなっていた:
A1: 前肢を引き上体を起こす
A2: 前肢を伸ばし上体を起こす
・ 被験者の上体の引きは、A2の始まった直後に終わり、A2の最中には戻り始めている。(上体の戻りを「のぞきこみ」とカテゴライズするなら、それはA2の途中で始まっている。)
・ A2と被験者の「上体の戻り」が並行して起こることが「目が合う」という印象をもたらしている。
・ 行動は互い違いに起こるとは限らない。ひとつのできごと(たとえば相手の行動のオン/オフ)があれば次の手がかりをまたずに行動はスタートすることがある。
・ 「相互行為」「やりとり」「コミュニケーション」 「協調行動」を観察するときには
いきなりカテゴリーに分ける前に・・・
各行動のオンとオフのタイミングに注意してみる。
タイミング間の前後関係に注意してみる。
・ 養育者・乳幼児・モノ間の視線について・・・
アイコンタクトはどちらから、どのように起こったか(オン)?いつ目が離れるか(オフ)
養育者・乳幼児のモノへの注視はいつ起こったか(オン)? いつ目が離れるか(オフ)?
モノへの注視のあとは?
それらは互い違いに起こるのか?並行して起こるのか?
・ 既存のカテゴリーとして見えてくる段階(カテゴリー化:「起き上がる」「目が合う」)
・ ばらばらな細かい動作として見えてくる段階(くわしいコーディング:シークエンス分析)
・ 細かい動作のあいだに有機的な前後関係が見えてくる段階(再カテゴリー化:)
・ 質問紙では質問項目にあらかじめカテゴリーが含まれていることが多い
・ 直接観察では、選択肢の選択ではなく、行動の生成を観察できる。
・ 直接観察のほうが、よりよく研究者を裏切る(再カテゴリー化を促す)
・ 内容(何が語られたか)
・ 語られ方、語られる状況(どう語られたか)
・ 面接者による被面接者への「聞き取り」から、研究参加者間のインタラクション分析へ
・ →映像分析の必要性
・ 静岡県磐田郡水窪の「観音様のまつり」
・ 現場の環境世界に埋め込まれている手がかり
(細馬 2003a)
・ 調査者も、コミュニケーションの参与者として、他の参加者の喚起する注意に導かれていく(「送り旗」の事例)
・ 繰り返し訪れることでカテゴリーがくつがえる
・ 自分と相手との行動評価を現場に投げ込むことがもたらす緊張感(現場でむなしくならないカテゴリ/評価とはなにか?)
(二つの参照枠の混合する事例)
・ 土地の東西南北に従うジェスチャー参照枠と話者どうしが「旗」を共有するジェスチャー参照枠との混合
・ なぜ会話・ジェスチャー分析研究者は1分のビデオで4時間議論できるのか。
・ 行動の詳細のほとんどは観察から見逃される:人が無意識のあいだにおこす膨大な行動
・ 語りによる個人の想起は、ことばとジェスチャーによる個人内・個人間相互作用の産物である (細馬 2004)
・ 空間的思考はジェスチャーによって表わされやすい (喜多2002, 細馬 2003b)
・ 相互作用の時間的特徴
相互作用はミリ秒単位で起こる
相互作用は並行しておこる
・ ことの起こった順番や前後関係は、それだけですでに重要な質的情報
内容を個別に取り出すことはシークエンス情報を失うこと
・ 映像データの解析ツールの必要性
・ そこで・・・
・ 映像の特定の範囲を指定して
・ メモをとる・トランスクリプトを書く
・ 会話分析・ジェスチャー分析・プロトコル分析・映像分析などなどに・・・
・ 事例(映像)を取り上げることの「妥当性」
そもそも膨大なできごとの中からその事例(映像)を抽出して論じることに意味はあるのか?
・ 映像データ「コレクション」を作る
パソコンに取り込んで管理する(各種取り込みソフト)*Macの場合ならiMovieの取り込みデータがそのままQuickTimeで読める。
大容量のHDに貯める
DVDでバックアップ
・ 研究者が、はじめから何が起こるか見通せないデータの方がrichでvalidがある。
1:修復しながらうまく行った例
2:うまくいかなかった例
3:うまく行った例
・ 個人内の対話ツールとして
メモをシステマティックにとる(ウィリッグ p50)ためのツール
・ 個人間の対話ツールとして
「プレゼンテーション」から
映像とアイディアの共有へ
・ ディスカッションという「現場」
・ 発表の聞き手を研究参加者として巻き込む:多声的研究
・ ディスカッション結果を書き留める
・ ディスカッション内容と行動映像とを結びつける (→GScript)
・ フリーウェアのソフトがWWWで入手できる。
・ 音声波形を見ながら映像情報を見る (Anvil, Wavesurfer)
・ 映像の切り取り情報を管理する (Mivurix by 荒川歩, GScript)
・ 映像と音声のリンク
・ 音声波形とトランスクリプションが対応
・ トランスクリプションのチャンネルを好きなだけ増やせる
・ テキストへの書き出し
・ 難点:書き込みはいまのところ英語のみ(Anvilは日本語使用可能)
・ データおこしの効率化に必要なショートカット機能(再生速度調節・繰り返し再生・巻き戻し後再生・入力支援など)
・ Excel(Gscript)、テキストデータ(GScriptLite)へのデータ書き込み
・ スクリプトに書いた部分の呼び出し機能。
・ 行動開始時刻・終了時刻を自動的に記録。行動長やギャップの計測に便利。
・ 詳細なコーディングを通して、それまで気づかなかったインタラクションに気づくことができる。
・ しかし・・・詳細なコーディングのほどこされたデータは読みにくい。
・ プレゼンテーションには映像や音声そのものを使い、研究者が口頭で再カテゴリー化を喚起する
・ もちろん、理論を開発するのは、プログラムではない。ワード・プロセッサが論文を書くわけではないのと一緒だ。(フリック 1998)
・ Willig, C (2001) Introducing Qualitative Research in Psychology:
Adventures in Theory and Methods, Open University Press.
ウィリッグ、上淵寿・大家まゆみ・小松孝至訳 (2003) 『心理学のための質的研究法入門ム創造的な探求に向けて』培風館
・ 西阪仰 1999 「会話分析の練習 −相互行為の資源としての言いよどみ」 好井裕明・山田富秋・西阪仰『会話分析への招待』世界思想社, pp.71-100.
・ 細馬宏通 (2002) 思考を漏らす身体 −ことばとジェスチャーの参照枠問題− 相互行為の民族誌的記述ム社会的文脈・認知過程・規則−
(研究課題番号11410086)平成11年度〜13年度科学研究費補助金(基礎研究(B)(1))研究成果報告書 149-162
・ 細馬宏通 (2003a) 祭礼空間を語ることばとジェスチャー --水窪町西浦田楽別当の語り-- 人工知能学会研究会資料 SIG-SLUD 101-2(6/15) 47-51
・ 細馬宏通 (2003b) 対面会話におけるジェスチャーの空間参照枠と左右性 人工知能学会研究会資料 SIG-SLUD 101-2(6/15) 1-4
・ 細馬宏通 (2004) 対話における記憶の相互作用分析 - 情報受容者のことばとジェスチャーが果たす役割 - 人工知能学会研究会資料 SIG-SLUD-A303-09(3/5) 51-56
・ 細馬宏通 (近刊) 修復をとらえなおす -参照枠の修復における発話とジェスチャーの個体内・個体間相互作用- 『文と発話』ひつじ書房
・ http://www.shc.usp.ac.jp/hosoma/jsdp15.html
(この講習会のレジュメ、関連リンク集など)